サボテン


シロ、


あのひとはいつも
わたしをシロってよぶ
ほんとうのなまえじゃない
なんでかはしらない

いつのひだったか
わすれてしまったけど
なんでシロってよぶの、
そうきいたら
あのひとはいつもとおなじように
わらいながら
なんとなく、ってこたえた




きょうはあめがふっているから
わたしはずっと いえのなかにいた
なにをするでもなく
なにかをしたいわけでもないので
なにもしない、ということをしていた
あめのおとをきいたり
すこしねむったりしているうちに
いつのまにかゆうぐれで
あめはすっかりやんでいた

ベランダから
うすくひかりがさしこんで
テレビのうえにおいてある
ちいさなサボテンに
ちいさなちいさな しろいはなが
さいていたことにきづいた
そんなとき、
けいたいがなって
てにとってみると
あのひとからのでんわだった
すぐにでたら
いま、いえにいる?っていうから
うん、っていうと
じゃあドアあけてよ、って
あのひとはいった

びっくりして
でもいそいで
げんかんにいって
ドアをあけると
そこにはあのひとがいた
ちゃんとあのひとだった
けいたいをかたてにもって
いつもとおなじようにわらってた
でも、
ずぶぬれだった


どうしたの、って
いおうとしたら
あのひとはだまって
わたしをだきしめた
あのひとはつめたくて
だけどあったかくて
わたしはなにも、
なにもいえなくなってしまった



あめはやんでいた
きっとずいぶんまえに
やんでいたのだとおもう
だけどあのひとは
ずぶぬれだった

  ――そうだ、

きょうも
きのうも
そのまえも
あのひとのところでは
ずっとずっと
あめがふっていて
だけどいつも
わらってたんだ




サボテンがはなをさかせたの、
そういったら
あのひとは
うん、
とだけいった

そして
シロ、って
わたしをよんで
だきしめていた うでをはなすと
すきだよ、って
わたしのめをみていったんだ