左胸にブローチを ぼくには、会いたい人がいっぱいいる。 それってすごく、しあわせなことじゃないかな。 また会える人、もう会えない人、いつか会える人。 その、みんなに会いたい。 こんなことを考えている、夜。 胸が苦しくなるのはきっと、 思い出をぎゅっと握っているからだ。 しあわせって、逃げてしまうものだと、ぼくは考える。 しあわせは、感じるものだから。 だけど、宝物は、逃げないね。きっと。 左胸にブローチを、つけるみたいに。 宝物は、物だから。 それは、新しいのでも昔のでも、きっときれいなブローチだ。 いつもきれいであってほしいから、ぼくはピカピカに磨いていたい。 そしてそれはきっと、自分自身を磨くことでもあるだろう。 この左胸のブローチは、ぼくに生きる力をくれる。 血のようなもので、心臓みたいなもの。 たぶん絶対消えないから、とてもたいせつにしていたい。 このブローチは、かけがえのない、ぼくにとっての宝物。 |