透明トリップ


ぼくはなにもわかっていなかったことに気づいた。
ぼくは海にだってなれたし、空にだってなれた。
かんたんなことだ。風に身を任せればいい。
それだけでぼくは自由になれるし、なにも考えなくてよかった。
幸せの紐をするするひっぱって、きみをひきよせる。
幸せの紐はするする逃げてく。手の中にはなにものこらないけれどそれすらうつくしかった。
ぼくにはわからないことだらけだった。
ぼくが知っていることはすでに気づいているひとがいるし、ぼくはちっとも真新しい人間ではなかった。
けれどぼくはひとりだった。ずっとずっとひとりだった。
だからぼくはほっとした。ひょっとしたら、ということは何度も考えたけれど空想でしかなかった。
きみもひとりだった。なぜ、ひとりとひとりはこんなにもさびしく、いとおしいのだろうか。
背中に闇をはりつけ、顔には笑みを浮かべ、これでもかという人生を歩んできた。
物語っている。ただの物語ではないことを。
ぼくらは太陽を追いかけ続けた。
どうしてこんなにもあたたかい気持ちにさせるのだろう。
いつか目を潰してしまっても、背中に羽が生えても、体が光に包まれても、ぼく自身が闇であろうとも、死にゆくところは同じだった。
海の下の下のほう。空の上の上のほう。
ここが真ん中だとは限らないけれど、ぼくにはぼくが中心だった。ぼくにはぼくが真実だった。
ぼくはなにもわかっていなかったことに気づいた。
幸せとはぐるぐる巻きにするものではなく、ちぎるものでもなく、考え、そして感じることだ。
とてもかんたんなことだ。風に身を任せればいい。
それだけでぼくは何者にもなれず、なにものこらず、なにもできない、ちっぽけなぼくになれた。
幸せの紐はいつだってみえなかった。それがぼくには救いだった。
ぼくはいつだって幸せになれた。いとも簡単に。
ぼくにはわからないことだらけだったけれど、それだけをわかっていることが、それがもうすべてだった。
それはそれは、すばらしいものだった。