チョコレートケーキ時間


「エクスキューズミー」
ぼくはチョコレートケーキを買った。
どっちゃりとした甘いやつだ。
すぐにのどがかわいた。
ミルクがほしかったけどここには牛なんていないから、ぼくはのみこんで、チョコレートケーキをからだのなかにおくりこんだ。
するとたちまち空は青くなり、太陽がまぶしく、ぼくのあらゆるものをすいとっていき、ぼくはあらゆるものをすいこんだ。
自然になっていく。あたかもそこにあったかのように、おだやかな風は吹いている。
ぼくはたしかにぼくだったけれど、変わっていくのだろう。みえなくとも、気づかなくとも、変わっているのだろう。
なにかを忘れたかもしれない。なにかを手に入れたかもしれない。
思い出すまでにすこし時間がかかるのは、それなりに生きてきたからだ。
悲しい時にすぐ楽しかった時を思い出すのはむずかしいかもしれない。
けれど時間をあたえれば、よみがえるだろう。

もし、きみや、だれかが悲しい思いや苦しい思いをしているならば、ぼくは時間をあたえたい。
けれど残念なことにぼくにはそんな力がない。新しい時間をあたえるなんてことはできない。
そうならばぼくはチョコレートケーキをプレゼントしたい。もしチョコレートケーキが嫌いだったら、サンドイッチでもいい。
なにかを手に入れることは必要だけれど、なにかを忘れることも必要だ。
そのためにはまた、なにかを手に入れることが必要かもしれない。
だからぼくはチョコレートケーキをプレゼントするよ。食べたら変わるかもしれないからさ。
よくも悪くもみんな変わっていっているんだ。
でもできたらいいほうに変わってほしいね。
そう思いながらぼくはまたチョコレートケーキを食べるよ。
おいしいといいな。