Standard Inspiration "INSTANT"


ちがう、ちがう、ぼくじゃない。
ありとあらゆるいくつかの、脳みそをもっていて、それをふくらましたり、ちいさくしたりする――むずかしくいえばね、ほんとはちっともたいしたことじゃない。

◆ivy(アイビー)
つづきの夢をみる。あけて、夜。箱の中で朝をむかえる。窓はまぶしく、目があけられない。
ぼくのうまれたところはそう、うすあかりのあるところ。寒いけどあたたまっていた。あかりはしずかに微笑むまなざし。透明の線をひいて、そうしてぼくは離れていった。
ひとりになることは、とてもおろかだ。ひとりになったひとは、いちどでもやさしい。忘れたくないのは、ひとりのこと。ひとりひとりであること。
ゆうべの夢をみる。昼間の雑音を消して。つめたい指先、つたわらない体温、忘れてしまったひとりのゆくえ。あくる日も思い出せずに、ふっとよぎった影だけをみていた。
箱の中は白く、なにもない。窓がひとつと扉がひとつ。くりかえし息をする、ひとりの黒くてちいさないきもの。重たい扉をあけるには、ゆっくりでいいだろう。目をとじたら浮き上がる、その感覚が大事。しばらく窓をみていよう。それは通過点で、ひとつひとつをこなす。ただそれだけでよかったし、ただそれだけがよかった。
忘れたくないのは、ひとりのこと。ぼくのうまれたところ。きみと出会うさいごの場所。


つなぎとめたところで、いったい何になる。ゴミに捨てても、糸がひっぱられる。結局ぼくはぼくのまま。逃れられない裸足のあしあと。