液 僕をさまさないで。 眠らずに夜を迎える。 寂しくて今、干上がってしまう。 雨が降らないまま、僕は溺死してしまいそうだ。 朝は照らす。揺れて、かげる。 浮き彫りの孤独。歪んだ背骨。指先の爪。 真っ白な床に散らばる赤い血はほんとうにきれいだったんだ。 だから泡と一緒になってすぐに消えた。見えないように隠した。 記憶がないんだ。黒のシーツ。引っ掻いて、透っていく。 なんだ、なんだ、これは、なんだ。 知ったかぶりも知らんぷりも、大人に教えてもらったけど、僕はいつまでも下手くそだった。 知っていることも事実で、知らないことも事実だったのに、それは真実ではなかった。 なぜだろう。僕の心臓は正しく操られ、世界と連動しているというのに。 闇は光に、光は闇に。勝てないというのに、かなわないというのに、永遠のライバルという宿命を貼られて、水平線を綱渡りしながら生きている。 生と死。そうか、僕も同じように。 危うく忘れるところだった。乗っ取られそうになった。水平線がうねり、見えづらくなった。波立つと、たまにあることなのだけど。 そんな珍しくもないだろうに、新聞の一面は大きな文字を浮かべ、目の前にちらつかせる。 避けても避けても視界を妨げるようにその文字は僕の前を行くので、僕はそいつを掴んで、そして散り散りに破った。 騙されている人、人、人。目が泳いでいる。 気を確かに持っているのは僕だけか。いやちがう。このままじゃ気違いに目をつけられる。殺気を感じた時にはもう遅い。 ああ、そうか。この世界から嫌われたら、僕の心臓も正しく停止するのだ。 だから僕は嫌われる前に、それとなく波長を合わせながら、逃避行する準備をする。この世界から出て行こう。 許されたい。ただそれだけで、僕はどこへでも行った。 どうかやさしい罪を。ゆるやかな釈放を。ただひとりのために願った。 僕はもう起き上がれなくなってしまった。夜になっても同じだった。 僕をさまさないで。二度がないように一度だけ。迎えが来るそれまで。 朝が来ても、昼が来ても、夜が来ても、この世界はほんとうにきれいだったんだ。 まぶしくて目を開けられないほどに。一昨日になって気づいた。 星が消えるまで見てた。まぶたの裏の夜。 星が消えるまで見てた。寂しくて僕は今、浴槽で眠る。 |