NEWS


どうしようもなく悲しい世界になってしまったなあ、
つらいことばかりが浮き彫りになっていく。
ニュースキャスターは落ち着いた口調で教えてくれる、
世界の終わりに合図はない。サイレンは鳴らないよ。

愛というのは人間が作り出したやさしさのかたまりで、
ほんとうは存在しないものなんだ。
ごく自然に空気中に漂い僕らを取り巻いているけれど、
ほんとうは存在しないものなんだ。

誰かが流した涙を飲んだのかな、
寂しさが鳴り止まない。
体温が奪われていくようだ、
夜に吸い込まれていく。

眠れなくなった。朝が来なくなった。たぶん忘れたんだ。僕を。君を。この街を。この国を。この地球を。世界を。
不安がる君にかける言葉が見当たらない。何もできない。僕はただ存在しているだけ。
誰かの代わりにはなれないけれど、誰もいないことにはならない。
それでもよければ喜んで。僕でもよければ喜んで。君さえよければ喜んで。

僕はただ存在している。

*

愛は、ほんとうは存在しないものなんだ。
もし存在するのなら、こんなに悲しい世界はない。
それでも夢を見たがった。愚かな人間の魔法。
希望があるならそれに縋りつきたい。嘘でも騙されていたい。
そう思うほど僕らは疲弊しているのかもしれない。

愛は、本来ならば存在しないものだとしても、
それでいいじゃないか。
目にみえないことすらみえなくなったら、おしまいだよ。
ほんとうの悲しい世界なんて見たくない。知りたくない。
世界の終わりに合図がないように、僕が死ぬ時の合図もない。

――みえないことすらみえなくなったらおしまいだよ、
――誰もそれを伝えないから、みえないところで死んでいくんだ。


*

ただただ、僕は存在している。
僕は存在しつづけている。
ニュースにならないみえないところで、
あなたが生きてることを願う。